フィネガンズ・ウェイク4pその5

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he addle liddle phifie Annie ugged the little craythur.
→イアウィッカーの妻はアナ・リヴィア・プルーラベル(ALPと略す)。addle liddle phifie AnnieはそのALPのこと。addleは「混乱させる」とか「腐った」という意味あり。liddleはリドルという苗字がある。不思議の国のアリスのアリス・リデル?phiはギリシャ文字のΦ、fieは古語で「これ、なんですか」とたしなめるときに使う文句らしい。Annieはアンの愛称。uggedはなんのことやらわからんが、ハグの意味がまずあり、嫌われた、とか、恐れた、とかの意味もあるとフィネガンズウィキにあったが出典不明だ。で、craythurなんだが、これはけっこう重要で、アイルランドなまり英語で「密造ウイスキー」の意味があるらしい。この小説のもとになったフィネガンズ・ウェイクという歌(アイルランドに伝わるバラッド)があるわけだが、そこにも「ティムがはしごから落ちて死ぬが、ウイスキーをかけられて生き返る」という歌詞があり、そのウイスキーがまさにcraythurだというのだ。バラッドのフィネガンズ・ウェイクはユーチューブで聴ける。the irish roversというのが歌っているのは画面に歌詞が出てきて、craythurというのはクレイチュアーと言っているようである。(またバラッドのフィネガンズウェイクの歌詞を見ればわかるが、mighty、odd、hodといった今まで本文で出てきた単語もそのバラッドの中に出てくる。そうした点からも、この小説がそのバラッドを意識的に下敷きにしているとわかるのである)。
しかし宮田でも柳瀬でもこのcraythurを示す言葉が見つからない。
宮田では「可愛い女房のアドル・リドル・ファイフィー・アニーを抱き」柳瀬では「穴莱媚亜(アナリヴィア)はちちくりかわいこだっこちゃん」であるが、いずれも明らかに翻訳表現として不足している。と言って私が良い訳を思いつけるわけでもないが、ここは明らかに原文を読まないと分からない情報が溢れている。

wither hayre in honds tuck up your part inher
→宮田「枯れ草髪を撫でながら、一物突っ込み二人で踊った」柳瀬「干草まみれ手で房内にものをたくましこめろ」
witherは「しおれる」。hayは前も出た「干し草」。そのまま読むと「hair in hands」手の中の髪、という意味が強そうだし、実際両者訳でもそんな感じだが、フィネガンズウィキではhare and hounds「野うさぎと猟犬」という鬼ごっこみたいなゲームにも言及されている。tuckは「押し込む」なので後半部はだいたいわかるかなあ、という感じである。tuck upなら「まくりあげる」だから「たくまし」に「たくし」が入っているとも読める。

oftwhile balbulous, mithre ahead, with goodly trowel in grasp and ivoroiled overalls which he habitacularly fondseed, like Haroun Childeric Eggeberth he would caligulate by multiplicables the alltitude and malltitude until he seesaw by neatlight of the liquor wheretwin 'twas born, his roundhead staple of other days to rise in undress maisonry upstanded(joygrantit!),
→宮田「何度も吃音酔っぱらいして司教冠を頭に載せ、特別常時愛用の立派なコテを握りしめ、象牙色の油の滲んだオーバーオール姿で、東洋のハルーン・キルデリック・エグバースを気取り、自分が建てた煉瓦の壁の高さと量を何倍にも計算し、あげくにアルコールの常夜灯でその場所に見た。昔日の丸頭の円柱が丸裸の石のごとく甦って直立する様を(大いなる喜悦!)」
柳瀬「しばしば飲み吃っては見惚(ト)れ帽かぶり、ぐっどりした鏝にぎりしめて常見頃に種好(しゅこう)をこらした象牙油まみれの仕事着姿、いかにも嬰稚示威偉々(えいちしいいい)たる卵交爵らしく、高さも数も殖やしに殖やし、やがて宵酒明りの酔(す)いね眼に双生(そうせい)してくるのが見えて、昔日の円頭形の逸物はむき出し石堅く直立(嬉ょ大!)」 
balbulusはラテン語で「どもり」。mitreは「司教冠、ミトラ」。goodlyが「立派な」。trowelが「コテ」。ivoryは「象牙」。habituallyは「いつも」だがparticularlyは「いつになく」で、反対の意味の単語が合体している。fondは「~が好きで」、seedは「種」。caligulateはカリギュラとcalculate計算するが合体しているようで、ああそれで卵交(乱交)爵かと。multiplicablesは辞書にないが、multiplicationは「かけ算」。altitudeは高さ、malltitudeはmagnitude大きさやmultitude数の多さ、が混じっているし、malt麦芽もあるかも。seesawは当然シーソーだし、「見る見た」でもある。柳瀬訳の「そうせい」の響きに残っているようだ。wheretwinとは「HCEとALPの双子の子ども」のことらしい。'twasとは「not was」と言いたいのか?stapleとは「主要産品」(逸物とも言える)。roundhead stapleと言うとフィネガンズウィキでは「アーサー王の円卓」のこととか、グラッドストーンのころにあった会議の名前だったりするらしい。undressは「裸の」。maisonryはmasonry「石工、石造建築」やフランス語の「家」が合わさっている。joygrantitのjoyは「喜び」だし、grantitはgrand雄大な、やgrant与える、の意味があるだろう。
柳瀬ではもう「ハルーン・キルデリック・エグバース(アッバース朝カリフ、フランク王国イングランド王国の王の名)」はもう消えてるしな。まあ宮田の「自分で建てた煉瓦の壁」が原文のどこにあるのかも疑問。宮田では双子が生まれるとか生まれないとかの部分も消えている。goodlyが柳瀬では「ぐっどりした」…