フィネガンズ・ウェイク4pその1

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what clashes here of wills gen wonts, oystrygods gaggin fishygods!→clashはクラッシュでいい。でもgenがわからん。宮田では「対」という意味らしいがweblioで調べても要を得ない。英語じゃないのか?でも何語だかもわからない。まあwontsがwillにnotが付いたwon'tだろうとはわかる。gagginはgagの現在分詞gaggingから来ているとおぼしい。
だがそれにしても、宮田「意志対反意志、牡蠣神東ゴート対魚神西ゴートの何と騒々しい衝突か!」はまあまだわかるとして、柳瀬「ここはなんたる意くさと意うさの、貝神重面姐(かいじんじゅうめんそ)と魚神耽快児(ぎょしんたんかいじ)のもつれどもえのがしゃがしゃーん!」とか、いくらなんでもやり過ぎじゃないかと思う。「意くさ」が「戦」はわかるが「意うさ」って何?貝神重面姐って怪人二十面相から来ているのだろうが。
ostrogothsというと東ゴートの意味になって、この文はアッティラの軍とローマ=西ゴート軍が戦ったカタラウヌムの戦いを示唆しているらしい。ああ、それで宮田訳に「東ゴート西ゴート」とか出たんだと。oystrygodsがostrogoths。かいじんじゅうめんそとかぎょしんたんかいじというのはアッティラとアエティウスのことなんだろうな多分。でも「貝神」はわかるにしても「重面姐」とか、虚心坦懐にかけるつもりで「魚神」に「耽快児」とか、原文にまるでない意味の漢字だらけで、牽強付会だなとは思う。

Brekkek Kekkek Kekkek Kekkek!Koax Koax Koax!Ualu Ualu Ualu!Quaouauh!→宮田訳注によればこの辺はアリストパネス「蛙」からの連想らしい。そう言われないことには意味不明な文だ。(eやoやaにアクサンテギュが付いている。でもフランス語でも普通oにアクサンテギュが付くなんてことはなかったと思う。)

where the Baddelaries partisans are still out to mathmaster Malachus Micgranes and the Verdons catapelting the camibalistics out of the Whoyteboyce of Hoodie Head.→baddelariesはフランスの剣のbadelaireから来ているらしい。mathmasterとなると「数学の先生」みたいだと直感的に思うが、両者訳ともに数学なんて単語は皆無である。malachusは、フィネガンウィキによればmalchusっていうやっぱりフランスの剣と、フェニキア都市のマラガが関係してるんだとか。楽器のマラカスを思いつくが、それはmaracasなので綴り的に遠いか。micgranesとあるが、migraineなら偏頭痛だし、なんかフランス語で「グレネード」の意味もあるとかフィネガンウィキにあったが、ジョイスの時代にグレネードなんてあったか?柳瀬では「つぶて」とか訳されていて、ザクロが英語で「pomegranate」なのである。(ウィキペディアの手榴弾の項目を見てもらえばわかるが、グレネードという擲弾を意味する語は古フランス語のpomegranateから来ているのだ。イギリスでは名誉革命の頃から火薬を弾に詰めて投げる兵器があった。日本でいう焙烙火矢のようなものだな。だからグレネードはジョイスの頃すでにあったのだな。)
verdonsは本当はverdunなのだがやはりフランスの剣の一種。catapeltingは本当はcatapultで、カタパルト、石弓である。camibalisticsだが、balisteはフランス語で投石機、cumは「~といっしょに」、ballの意味もあるようで、やはりカニバリスム(人肉食)の意味もある。whoyteboyceは宮田では「白衣党暴徒」とか訳していて、柳瀬では「白弧隊(びゃっこたい)」である。宮田訳注にあるとおり、18世紀アイルランドで1/10税に反対した秘密結社「白衣党」のことらしいが、フィネガンウィキでは「ベケットジョイスにとっての「ホワイトボーイ」(お気に入り)だったからそれも指すか」とか書いてあった。白虎隊はたしかにboyの集まりである。hoodieは両者ともに頭巾としている。
宮田「バドラリ剣パルチザンは今もマラカス消火弾隊を打ち負かさんとし、ヴェルドン剣隊は頭巾岬の白衣党暴徒から人喰い石弓兵を追い立て壊滅せんとする」柳瀬「槍まくり棒徒らはなおもつぶてのつわものどもを突きに突き、武得ル団が頭巾頭(とう)げの白弧隊の肉弾道を石弓で攻め立てる」

assiegates and boomeringstroms.Sod's brood,be me fear! Sanglorians,save!Arms apeal with larms,appalling.Killykillkilly:a toll,a toll.→この辺は文が短く切れているのでわりと楽だ。assieger(真ん中のeにアクサンテギュ)はフランス語で「包囲する」。sodは「芝土」という意味。broodは「ひな、子どもたち」だが、blood血の意味もあるだろう。fearは恐怖、不安。sangはフランス語で血で、そこにgloria賛歌やglory栄誉が組合わさっている。saveは「守る、救う」とかで、god save the queenとかだと女王陛下万歳になる。larmeはフランス語で涙。appallingは「ぞっとする」。tollは「鐘をゆっくり鳴らす」。
宮田「投げ槍包囲組対ブーメラン渦巻き組。アイルランドの子らよ、わが部下となれ!栄光を求めて血と涙を流せし者よ、万歳!人青ざめる武器の号泣。殺しだ殺しだ殺しだ。弔鐘だ、弔鐘だ。」柳瀬「城門攻めとブーメ乱嵐。神芝居のぞっ土(と)血まみれ!無血の栄枯ーよ!武器が累涙(るいるい)ととどろく。死ぬ死ぬ死ぬ、あ、逝く、あ、逝く。」
アイルランドの子らよ、わが部下となれ!」と「神芝居のぞっ土血まみれ!」じゃあもうまるで日本語の意味が違うが、両者とも訳の根拠はないわけではない。宮田ではbroodを「子ら」の意味で訳していて、柳瀬ではbloodの意味を優先している。sodはアイルランドの草原のような土地のことかもしれない。柳瀬では「芝土」を分解して使っている。宮田では「be me fear!」は「わが部下となれ」なのだろう。
柳瀬の「無血の栄枯ーよ!」は、フランス語でsansは「~なしに」なのでその意味も含めて「無血」とか、「栄光」ではなく「栄枯盛衰」の「栄枯」を使っていると取れる。宮田の「弔鐘だ」が柳瀬では「あ、逝く」になっているが、たしかに弔鐘は人が逝ったら鳴らすわけだから意味は通じているな。